法的に相続人を廃除するには?相続廃除の仕組み・手続きと注意点を弁護士が解説
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家族の間で深刻なトラブルが起きたとき──たとえば暴言や暴力などで「どうしてもあの子には相続させたくない」というケースも少なくありません。相続人を廃除するための手段として、相続権を剥奪する『相続廃除』という制度があります。本記事では、相続欠格との違い、廃除の要件・事由、実際の申立手続などを弁護士が解説します。
1.相続人の廃除とは?基礎知識
相続人を「廃除」と言うと強い響きがありますが、法律上は「相続廃除」といいます。(以降は、法律上の用語としての「廃除」として表記します。)
1-1.相続欠格と相続廃除の違い
相続欠格(民法891条)は法律で定められた行為(被相続人を故意に死亡させた、遺言偽造など)を行った場合に自動的に相続権を失う制度です。
相続廃除(民法892条)は、被相続人自身の申し立てにより、家庭裁判所が「虐待」「重大な侮辱」「著しい非行」を理由に相続権を剥奪する制度です。
2.相続廃除の法的根拠と要件
相続廃除の手続きは、法律で厳格に定められています。
民法892条によると、「一定の虐待・侮辱・著しい非行をした相続人を廃除できる」と規定されており、廃除の申立ては将来被相続人となる人のみ可能で、本人の意思能力が喪失してしまった後は廃除の申し立てはできません。
2-2.廃除事由として認められるのは?
相続廃除の理由としては、以下の行為があった場合になります。
虐待:身体的・経済的虐待など
重大な侮辱:名誉毀損や暴言など
著しい非行:重大な犯罪行為や背信行為など
裁判所へ相続廃除の申し立てを行う際は、これらの行為があったことを立証する必要があります。
2-3.廃除対象となる相続人の範囲
相続廃除の対象となる相続人については、子、配偶者、直系尊属に限られるため、被相続人となる人の兄弟姉妹は相続廃除の対象外となります。
3.相続廃除の手続きの流れ
3-1.申立主体は被相続人となり得る人のみ
相続の廃除の申し立ては本人のみとなり、本人が死亡した後に相続人が申し立てることや、第三者が申立てをすることはできません。また、本人の意思能力を保持していることが要件となりますので、判断能力をきちんと有する段階で申立て手続きを行います。
※被相続人本人が遺言の中で相続廃除の意思を表示していた場合は、遺言執行者が相続廃除の申立を行うこともあります。なお、遺言書の中で遺言執行者が指定されていない場合は遺言執行者の選任から行う必要があります。
3-2.家庭裁判所の管轄と申立先
相続廃除は、被相続人となり得る人の住所地を管轄する家庭裁判所に申立書を提出します。申立ての際は、以下のような書類が必要となります。
* 申立書(廃除理由の詳細を記載します)
* 戸籍謄本一式(相続関係を証明するために必要です)
* 廃除理由を証明するための資料や証拠(病院の診断書、警察資料、音声や動画、目撃者による陳述書など)
3-4.審判手続きの流れ
1. 申立て受理・書類審査 家庭裁判所が申立書・証拠資料を受理し、各種提出書類に不備がないかチェックします。
2. 審理期日の設定 審判官が当事者(被相続人となる人と被廃除予定者)を呼び、口頭審理の日程を指定します。
3. 口頭審理(審判) 当事者双方が主張・立証を行います。裁判所は虐待や侮辱、非行の事実関係を詳細に検討し、廃除の要件該当性を判断します。
4. 審判結果の送達 廃除が認められれば「審判書」が送達され、その時点で相続権および遺留分権が消滅します。
5. 即時抗告・確定 不服がある場合、利害関係人は審判書送達後2週間以内に高等裁判所へ即時抗告できます。抗告がないか認容されれば、審判が確定します。
なお、審判確定後は市町村に届け出を行い、相続廃除の旨を戸籍謄本に記載してもらう必要があります。(廃除された相続人の身分事項記載欄に「推定相続人廃除」と記載されます。)
4.相続廃除されたあとの相続影響
4-1.法定相続分の再計算
相続廃除が確定すると、廃除された方は最初から相続人でなかった扱いになります。たとえば子3人のうち1人が廃除された場合、残る2人で法定相続分(配偶者×1/2、子×各1/4)を再配分する形となり、1人当たりの取り分が増えます。
4-2.遺留分権の消滅と請求リスクの廃除
廃除された相続人は、法定相続権だけでなく遺留分請求権も失います。遺留分は「最低限の取り分」を保証する制度ですが、廃除確定後は完全にその権利が消滅し、後日遺留分侵害額請求を受けるリスクを法的に廃除できます。このため、廃除が認められた後は遺留分対応の心配なく残余財産の分配や手続きを進められるメリットがあります。
関連:残りの相続人間でも遺留分の請求リスクを可能な限り抑えたい場合は?
廃除が確定した相続人については相続はさせずにすみますが、例えば残った相続人の中でも特定の一人にだけ相続をさせたいというような場合は、残りの相続人からの遺留分請求を受ける可能性があります。
事業承継の兼ね合いなどで、どうしても一人に相続財産を寄せる必要があるような場合では、遺留分を満たすような額での配分での遺言書を作成する、生前に遺留分の放棄を実施してもらうなどの対策を取っておく必要があります。
関連リンク:●特定の相続人に遺産を相続させる「遺留分」対策のポイント
5.相続廃除が認められなかった場合、他に相続をさせない手立てはあるのか?
相続廃除が認められなかった場合、法的に「この人には一切相続させない」ことを完全に実現する手段はありません。ただし、以下のような対策で、結果的にその相続人の取り分を最小限に抑えることや、実質的に廃除に近い運用を目指すことは可能です。
1.遺言書による分配割合の指定
まずは、遺言で「○○には遺産を与えない」「△△に全財産を相続させる」と指定しておくことです。遺言書が存在する場合は、遺言書通りの遺産分割を行うことが原則ですので、相続廃除ほどの強制力はありませんがある程度の範囲ではご自身の意思を実現可能です。ただ、遺留分の問題は残ってきますので、遺留分を侵害しない範囲で、可能な限り取り分をゼロに近づける条項を専門家と一緒に設計することが望ましいでしょう。
2.生前贈与・信託での資産圧縮
他の相続人への生前贈与や家族信託などで相続開始前に財産を圧縮すれば、相続財産そのものを減らせます。結果として、相続が発生した際も本人に渡る金額が小さくなります。
3.生命保険金での財産分配
生命保険金は「みなし相続財産」扱いとなるため、契約時に受取人を特定の相続人に指定すれば、その分は相続財産には含まれません。相続人間での遺産分割協議の対象財産にもならないため、生前贈与等と同じく本人が受け取れる金額を小さくすることができます。
4.遺留分放棄の合意を得る
相続をさせたくない相続人に対して、合意の上で遺留分を放棄してもらうことで、将来的な遺留分の請求を防ぐことが可能です。遺留分を放棄してもらう代わりに生前に一定程度の金額を支払うことが実務上は多いこと、合意をした場合は必ず書面で残すこと(口約束のみだと実際の相続発生時に「遺留分放棄していない」と放棄の意思を撤回されるリスクがあります。)には留意が必要です。
いずれの方法も、「相続を完全に廃除する」ものではありませんが、相続廃除が認められなかった場合の抑止効果や実質的な廃除策として有効です。どの手段が適切かは、ご家族の関係性や財産構成によって異なりますので、弁護士に相談の上で対策を進められることをお勧めします。
6.相続廃除手続き上のよくある質問Q&A
Q.廃除の審判にはどのくらい時間がかかりますか?
A.相続廃除は調停を経ずに家庭裁判所の審判手続きで進行します。申立てから最初の審判期日までは通常1〜2か月程度、その後、数回の口頭審理を重ねておおむね3〜6か月程度で審判が確定するケースが多いです。ただし、証拠の量や裁判所の混雑状況によって前後する可能性があります。
Q.申立てにかかる費用は?
A.裁判所への申立の手数料としては収入印紙2,400円、連絡用郵券数百円程度、あとは申立時の資料としての診断書などの取得実費がかかってきます。弁護士に依頼する場合は、別途弁護士報酬が発生します。
Q.兄弟姉妹も相続廃除できますか?
兄弟姉妹は相続廃除の対象外ですが、遺留分もないため、遺言で相続をさせたくない兄弟姉妹以外に財産を渡すように指定しておくことで、相続を実質的にさせないことができます。
Q.廃除後に再び相続権を回復できますか?
A.一度廃除が確定すると、廃除された側では相続権は戻せません。被相続人となる人が再度裁判所に申立てを行い、相続廃除の撤回が確定すると、相続廃除自体が取消となるため相続権が回復します。
Q.軽微な非行でも相続廃除は認められますか?
A. 相続廃除は家庭裁判所が個別の事情を総合判断して行うため、「単発だから必ず認められない」とは断定できません。一度きりの行為であっても、その内容が非常に悪質で被相続人に深刻な精神的・身体的被害を与えたと認められれば「著しい非行」に該当しうるからです。一方で、裁判例を見ると、継続的・反復的な虐待や侮辱の事実を重視する傾向があります。申立てを行う際は、行為の性質・被害の程度・反省状況などを詳細に立証し、裁判所に「非行が著しい」と判断してもらうことがポイントです。
7.本コラムのまとめ
相続廃除は、相続人を法的に「廃除」する手段として有効ですが、廃除の相当性を裁判所に認めさせる必要があります。
そのため、虐待や著しい非行など相続廃除をすべき事由が存在することを証明するための事前の準備と、適切な立証を行うための専門家のサポートが重要となります。
当事務所では、相続に特化した弁護士を中心に、相続廃除や遺留分対策を含めた生前の相続対策についてワンストップで対応しております。
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